太陽光発電コラムPV column
コンサルティング
2025/12/18
欧州委員会によるEUエネルギーインフラのアップグレード提案
日本では、2012年に施行されたFIT法によって主に太陽光発電設備導入による再生可能エネルギー由来の発電能力が大幅に増加しました。(2025年12月時点で70GW強。)
太陽光発電も風力発電も変動性再生可能エネルギー(VRE: Variable Renewable Energy)であり、気象条件に依存する発電設備のため、既存の系統容量や余剰発電の活用について様々な提言が出てきました。諸外国と比較すると少ない出力制御量で運営されてきているように見受けられる一方で、最近の話題は系統用蓄電設備に集中してしまっているようです。
今回のコラムでは、再生可能エネルギーの導入と制度作りで先行しているヨーロッパで、欧州委員会 (European Commission)が12月10日に発表しましたエネルギーインフラのアップグレードに関する提案(原題: Commission proposes upgrade of the EU’s energy infrastructure to lower bills and boost independence)についてご紹介致します。
参照元: https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_2945
PDF版(英語): https://ec.europa.eu/commission/presscorner/api/files/document/print/en/ip_25_2945/IP_25_2945_EN.pdf
参考用為替レート: 1ユーロ = 182.50円
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プレスリリース 2025年12月10日 ブリュッセル
欧州委員会によるエネルギーインフラ整備案: 料金引き下げと自主性強化を目指して
欧州エネルギーシステムの基盤である送電網インフラは、その潜在能力を最大限に発揮できるよう、近代化・拡張されます。本日提案された欧州委員会の欧州系統(送電網)パッケージとエネルギー・ハイウェイ構想は、すべての加盟国における効率的なエネルギー供給を可能にし、より安価なクリーンエネルギーの統合と電化の促進を実現します。これにより、エネルギー価格の低下と、すべての欧州市民の手頃な生活の実現が促進されます。 欧州がエネルギー自給自足を実現するためにロシアからのエネルギー輸入から離脱する中で、安全で信頼できる供給を確保します。
系統パッケージは、インフラ計画に真に欧州的な視点を取り入れるとともに、許認可手続きを迅速化し、国境を越えたプロジェクトに関する費用の公平な分担を確保するという、エネルギーインフラへの新たなアプローチを示すものです。この新たなアプローチにより、既存のエネルギーインフラを最大限に活用できるようになり、同時にEU全域における系統(送電網)やその他のエネルギーインフラ設備の整備が加速されます。
図1. 欧州エネルギーインフラの多国間で関心のあるプロジェクト

系統インフラの将来性を確保するため、欧州委員会は新たな資金調達方法を提案しています。例えば、コストシェアリングとバンドリング(統合)が挙げられます。国境を越えたエネルギーインフラの統合が進むにつれ、建設地域を超えて便益がもたらされます。そのため、地域の消費者への不均衡な負担を回避するためには、公正かつ透明性のあるコストシェアリングが不可欠です。この問題に対処するため、「欧州系統パッケージ」は、費用と便益の評価方法において、より高い透明性と公平性を提供することを目指しています。インフラプロジェクトの統合は、例えば特別目的会社(SPV)の設立などを通じて資金調達を容易にし、追加投資を誘致することにもつながります。
ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長が2025年の一般教書演説で発表した8つのエネルギー・ハイウェイは、実施に向けて追加的な短期支援とコミットメントを必要とする、最も緊急性の高いインフラニーズに対応するものです。これらはエネルギー連合の完成に向けた戦略的重要性と、その実施を成功させるために必要なEUからの政治的支援レベルに基づいて選定されました。
欧州委員会は、政治的連携の強化や地域ハイレベルグループへの働きかけ、欧州コーディネーターの支援を動員とエネルギー連合タスクフォースとの緊密な連携、そして必要に応じてEU加盟国外への働きかけを通じて、エネルギー・ハイウェイの迅速な推進に尽力します。各プロジェクトはEUレベルで優先順位が付けられ、欧州委員会は加盟国が国内で同様の優先順位を与えられるよう支援します。
次のステップ
法案は、通常の立法手続きに基づき、欧州議会および理事会に提出されます。同時に、欧州委員会は加盟国およびすべての関係者と緊密に連携し、最近公表された共通利益プロジェクトおよび相互利益プロジェクトに関する第2回EUリストに記載されている主要な越境エネルギーインフラプロジェクトの実施に取り組んでいきます。こうした連携は、エネルギー・ハイウェイ構想の迅速な実現、ならびに再生可能エネルギープロジェクト、蓄電プロジェクト、充電ステーションの認可取得の迅速化にとって極めて重要です。
背景
現行のEUの法的枠組みにおいては進展が見られるものの、EUは真のエネルギー連合を可能にする加盟国間の相互接続性のレベルには達していません。加盟国の中には、2030年までに15%の相互接続目標を達成する見込みのない国もいくつかあります。対策を講じないことのコストは計り知れません。2022年には、EUにおける利用可能な総エネルギー消費量のうち、化石燃料が最大のシェア(70%)を占め、加盟国で使用される石油とガスの98%が輸入に頼っていました。このため、EUは価格変動と地政学的リスクにさらされています。
2024年、EUの産業用電力価格は1kWhあたり0.199ユーロ(36.32円)に達したのに対し、中国では0.082ユーロ(14.97円)、米国では0.075ユーロ(13.69円)でした。2025年上半期のEU消費者向け平均電力価格は、ドイツで0.3835ユーロ/kWh(69.99円)からハンガリーの0.1040ユーロ/kWh(18.98円)まで変動しました。一方、非家庭用電力価格は、アイルランドの0.2726ユーロ/kWh(49.75円)からフィンランドの0.0804ユーロ/kWh(14.67円)まで変動しました。この格差の主な原因は、インフラへの投資と統合が不十分であることです。
したがって、財政支援の拡大が鍵となります。2028~2034年の多年度財政枠組みの一環として、欧州委員会はクリーンエネルギー基金(CEF)のエネルギー予算を58億4,000万ユーロ(1兆658億円)から299億1,000万ユーロへ(5兆4586億円)と5倍に増額することを提案しました。公的資金に加え、今後策定されるクリーンエネルギー投資戦略において、民間投資を活用するための施策も実施されます。
詳細情報(リンク先は英語になります)
質問と回答
ファクトシート
欧州電力網に関するコミュニケーションパッケージ – エネルギー – 欧州委員会
欧州横断エネルギーネットワーク(TEN-E)規制の改正案 – エネルギー
インフラプロジェクトの許可手続きを迅速化するための指令改正案 – エネルギー
効率的な送電網接続に関するガイダンス – エネルギー – 欧州委員会
差金決済契約に関するガイダンス – エネルギー – 欧州委員会
欧州の電力網 – 欧州委員会
PCIインタラクティブマップ
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また御参考までに、欧州委員会のこの提案に関連する分析データ(前述に記載のファクトシート)の概要は下記の通りです。
欧州系統パッケージは、欧州のエネルギーシステムの基盤である送電網インフラを近代化・拡張します。障壁やボトルネックを、高速エネルギー・ハイウェイと国境を越えた接続に置き換えることで、系統パッケージはエネルギー価格の引き下げに貢献し、すべての欧州市民の手頃な生活を支援します。インフラ計画における真に欧州的な新しいアプローチは、既存のエネルギーインフラを最大限に活用し、EU全域における送電網やその他の物理的なエネルギーインフラの開発を加速させます。
相互接続が不完全な系統(送電網):
- 45%: 2030年までに、国境を越えた系統容量のニーズの45%が未解決のままとなるでしょう。
- 15%: 多くの加盟国が、2030年までに15%の相互接続目標を達成する見込みがありません。
- 52億ユーロ(9,490億円): 系統混雑によるコストは、2022年に52億ユーロ(9,490億円)に達し、2030年までに260億ユーロ(4兆7,450億円)にまで増加する可能性があります。
- 310TWh: 2040年までに、最大310 TWhの再生可能エネルギーが無駄になる可能性があり、これは2023年の電力消費量のほぼ半分に相当します。
相互接続が完全な系統(送電網):
- 340億ユーロ(6兆2,050億円): EU域内エネルギー市場のおかげで、欧州の消費者はすでに毎年約340億ユーロ(6兆2,050億円)の恩恵を受けています。
- 400~430億ユーロ(7.3~7.85兆円): さらなる統合により、このような恩恵は2030年までに年間400〜430億ユーロ(7.3~7.85兆円)にまで増加する可能性があります。
- 30億ユーロ(5,475億円): 50億ユーロ(9,125億円)の投資は、システムコストを80億ユーロ(1.46兆円)削減し、30億ユーロ(5,475億円)の純経済的利益を生み出します。
- +50%: 国境を越えた電力取引を50%増やすことで、2030年のEUの年間GDPを約180億ユーロ(3兆2,850億円)増加させる可能性があります。
欧州系統パッケージとエネルギー・ハイウェイにより、EUは完全に相互接続されたエネルギーシステムを持つことになり、クリーンで手頃な価格の、自国産エネルギーがEU全体に自由に、そして安全に流れるようになります。
共同の欧州利益のための共通の欧州プロジェクト:
- EUレベルでのより大きな指示と調整: 系統インフラのマッピング計画。
- エネルギーインフラ設備のセキュリティと回復力の強化。
- 再生可能エネルギープロジェクトの許認可プロセスの迅速化: 国民の受容と利益の分配の確保。
- 既存インフラの効率向上: 新技術、柔軟性、および蓄電能力による補強。
エネルギー・ハイウェイの迅速化:
これらの主要な戦略的プロジェクトは、真のエネルギー連合の完成を支援するために、追加の短期的なサポートと実施へのコミットメントを必要とする最も緊急なインフラニーズに対応します。
図2. 計画されているエネルギー・ハイウェイの地図

参照元: 欧州委員会ファクトシート(PDF)より画像抜粋
EUは人口(約4.5億人)、経済規模(約20兆ドル)であり、日本の人口(約1.2億人)、経済規模(4兆ドル)は単純比較でEUの約4分の1相当といえそうです。この割合でエネルギー予算を評価すると、2028年から2034年の多年度予算(6年間)は14.6億ユーロ(約2,700億円)から74.78億ユーロ(約1兆3647億円)という評価になりそうです。
日本の環境省はGX推進対策費として2,000億円(2025年度)、経産省等でも省エネ・脱炭素向けの予算がある事から、EUと比較しても遜色のない予算規模ではないかと感じます。同様にそれによる便益も欧州の年間340億ユーロ(6兆2,050億円)の4分の1である85億ユーロ(1.55兆円)が日本で発生していてもおかしくない、という事も言えるかと思います。
今後の欧州、日本のエネルギー政策の成果がどのようになるのか、引き続き注目して参ります。
謝辞: エネルギーとインフラに関する興味深い記事を発表して下さいました欧州委員会に御礼申し上げます。
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